在庫・出荷・システム
ECの在庫回転率と滞留在庫対策|販売率・在庫日数の見方
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日本国内向けに布小物10商品を販売する、店主1名の架空のECショップを考えます。この店では、毎週2時間を商品別の在庫や売れ行きの確認にあてており、売れ残り対策に使える追加施策の費用枠を月あたり税抜1万円(仕入代金、通常の発送費、カートシステムの月額利用料は別)と仮定して運営しています。
ある週の確認で、代表的なポーチ1種類の在庫が手元に160個残っていることがわかりました。この160個は、すぐに値下げして売り切るべき数量でしょうか。それとも、次の入荷まで欠品を防ぐために手元に残しておくべき在庫でしょうか。
手元の数量だけで判断を焦ると、利益を不必要に削ったり、逆に売れ筋を欠品させたりします。数量、原価、日数の指標を正しく切り分け、実際に販売できていた期間や補充納期、返品の状況を確かめたうえで、次の具体的な行動を決めます。
在庫回転率・販売率・残り日数は、どう違う?
在庫の動きを把握する際には、「在庫回転率」「販売率」「在庫残日数」の3つを区別して使います。これらは金額の入れ替わり回数、動いた数量の割合、直近ペースに基づく日数という異なる視点の指標であり、単位も対象期間も揃っていません。管理表では1つの列にまとめず、別々の項目として並べて把握します。
| 指標 | 計算式 | 単位 | 意味と主な留意点 |
|---|---|---|---|
| 在庫回転率 | 期間売上原価 ÷ 同期間平均在庫原価 | 回 | 手元の在庫原価が何回入れ替わったかを示す。Shopify公式ブログの在庫管理ガイド(確認日:2026年10月9日)では売上原価÷平均在庫金額と案内される。分子に売上高を混ぜず原価基準で揃え、平均在庫原価は簡易的に「(期首+期末)÷2」で算出する。 |
| 販売率(消化率) | 販売数 ÷ (販売数 + 期末数量) × 100 | % | 用意した数量のうち実際に売れた割合。Shopifyの在庫レポート公式ドキュメントにおける消化率の定義。返品や手動調整は販売数に直接反映されず、日次集計のPercent soldとは異なる。 |
| 在庫残日数 | 期末数量 ÷ 日平均販売数 | 日 | 直近の販売ペースが継続したと仮定した場合の在庫保有日数。Shopify標準レポートでは直近28日間の日平均販売数が基準となり、期間内販売0の場合は「N/A」と表示される。将来の確定需要や完売期日を約束するものではない。 |
計算する前に、どの数量と原価をそろえる?
指標を計算する前に、現場の現物と管理画面の記録を照合し、在庫の状態と原価の計算基準を揃えておく必要があります。
Shopifyの在庫状態公式ドキュメントでは、購入可能な「販売可能(Available)」の数量には、注文済みで出荷を待つ「確保済み(Committed)」、検品中や不良などの「販売不可(Unavailable)」、仕入先から未着の「未着予定(Incoming)」は含まれません。手元にある総数(On hand)は、販売可能、確保済み、販売不可を足し合わせた数量です。
Shopifyの在庫レポート公式ドキュメント(2026年10月10日確認)では、2026年10月1日以降のデータは販売可能数から手元総数(On hand)へ変更されています。月末在庫スナップショットの「Ending quantity」には注文確保済みと販売不可の在庫も含み、未着分は含みません。9月30日以前の履歴は販売可能数のままです。レポートの数量を使う際は対象期間を確かめ、「今売れる数」や税務上の棚卸評価額へそのまま読み替えないようにします。
原価の基準も明確にしておきます。本稿の架空例では商品1個の管理用原価を税抜1,200円で統一しますが、実際の運営では採用している原価基準を確認して揃えます。
返品の扱いも事前確認が必要です。顧客から手元に荷物が届いても、検品を終えるまでは良品として再販できるか分かりません。未判定の返品を届いただけで販売可能数に足してはなりません。また、顧客への返金金額と商品の仕入原価は異なるため、返金額を在庫原価に混ぜないよう注意します。
記録と現物にずれがあるときは、Shopifyの在庫調整履歴公式ドキュメントで数量変更の履歴を確かめます。ただし、履歴上の記録だけで現物の破損などの事実が保証されるわけではありません。詳細な照合作業は在庫数量のずれを確認するを、返品受入の管理手順は返品と返金の実務を確認するを参照してください。
30日で60個売れたら、160個の残りをどう読む?
架空の布小物店における代表ポーチ1種類を使い、実際の数字を1つの表にまとめて計算します。
前提条件として、対象期間は同じ30日間とし、期間中の拠点移動、顧客返品、破損、未発送の引当、販売不可への隔離、仕入単価の変更はいずれも発生していないものとします。すべて税抜取得原価1,200円で統一した代表ポーチ1種類の管理試算です。
| 項目 | 数量 / 金額 | 計算の考え方 | 指標の算出結果 |
|---|---|---|---|
| 期首在庫 | 180個(216,000円) | 180個 × 税抜1,200円 | ― |
| 期間内実入荷 | 40個 | 期間内に到着・検品済みの数量 | ― |
| 期間内販売 | 60個 | 期間売上原価 72,000円(60個 × 1,200円) | 日平均販売数:2個/日(60個 ÷ 30日) |
| 期末在庫 | 160個(192,000円) | 180個 + 40個 − 60個 = 160個(160個 × 1,200円) | ― |
| 平均在庫原価 | 204,000円 | (期首 216,000円 + 期末 192,000円) ÷ 2 | ― |
| 在庫回転率(30日) | ― | 期間売上原価 72,000円 ÷ 平均在庫原価 204,000円 | 約0.35回(30日間) |
| 販売率(消化率) | ― | 60個 ÷ (60個 + 160個) × 100 | 約27.3% |
| 在庫残日数 | ― | 期末 160個 ÷ 1日あたり2個 | 80日(当店の30日平均試算) |
算出した結果を読み解く際は、数字の前提を正しく踏まえる必要があります。
在庫残日数80日は、現在の販売ペースが今後も一定であると仮定した計算上の目安に過ぎず、余剰在庫や不良品と断定する根拠にも、完売期日を予測する根拠にもなりません。また、Shopify標準レポートの残日数は直近28日間の日平均販売数を基準に算出されるため、この店が試算した30日平均とは対象期間が異なります。
30日間の回転率0.35回についても、季節需要の偏りや2時点簡易平均の性質があるため、単純に12倍して年率換算することはできません。ひとつの数値だけで過不足を決めつけず、販売機会や納期と合わせて評価します。
売れない期間は、需要不足だけが原因?
商品の動きが鈍いとき、直ちに「需要がない」と断定するのは適切ではありません。売れ行きが止まっている背景には、商品自体の魅力以外の要因も存在します。
入荷からの経過日数(日齢)と、商品が実際に購入可能だった期間を切り分けて確認します。商品ページが非公開になっていたり、設定ミスで在庫切れ表示になっていたりした場合、売れなかった理由は購入機会がなかったことにあり、需要の有無を示すものではありません。また、商品ページの閲覧数が極端に少ない場合も、認知されていないと安易に決めつけず、露出状況、検索流入、価格や写真の見せ方など複数の要因を点検します。
売れ筋を把握する指標としてABC分析があります。ShopifyのABC分析公式ドキュメントでは、直近28日間の売上寄与度をもとに、売上高の上位約80%をA、次の約15%をB、残りの約5%をCに分類します。
ABC分析の確認にあたっては、以下の点に留意します。
- 小売価格ベースの売上高で分類されるため、値引き額や仕入原価は等級計算に含まれません。Aランクが高利益とは限らず、Cランクでも十分な利益が出ている場合があります。
- Basicプランなど一部の契約では、管理画面で標準提供されず専用レポートアプリの利用が案内される場合があります。
- 直近の販売数が0個で残日数が「N/A」と表示されている場合も、計算上の結果に過ぎず、将来の需要がゼロであることや在庫処分を義務づけるものではありません。
代表ポーチがCランクであったり販売数が一時的にゼロであったりしても、セット販売の構成品であったり粗利が高かったりするなら、即座に廃番や廃棄の対象にはしません。売れない要因が購入機会、露出、季節性のどこにあるかを確かめます。
追加発注を減らすとき、欠品はどう防ぐ?
手元に80日分の在庫があると分かったとき、売れ残りを警戒して追加発注を一律に止めてしまうと、必要な時期に在庫が切れて欠品を招くおそれがあります。
発注を調整する際は、「補充納期(リードタイム)」と「安全在庫」を確認します。補充納期とは、発注から商品が届いて検品を終え、販売可能になるまでにかかる時間です。安全在庫は需要変動や納期遅延に備えて手元に置く数量であり、欠品を絶対に防ぐ保証数ではありません。
同じ「在庫残日数80日」であっても、補充納期の長さによって判断は変わります。 仮に、生地手配や縫製に時間がかかり補充納期が「90日」かかる布小物の場合はどうでしょうか。現在の販売ペースが続く仮定では、納期の90日が手元の残日数80日を上回るため、発注状況や安全在庫を早急に点検する必要があります。一方で、国内工房から「21日」で納品されるポーチであれば日数に余裕は見込めますが、だからといって追加発注が一切不要と決まるわけではなく、設定した発注点に照らして判断します。どちらも仮の想定であり、残日数だけで欠品や不要を断定することはできません。
発注を見直す際は、調整可能な未確定の発注案と、すでに依頼済みの確定発注を明確に分けます。確定発注については、発注書を送ったかどうかだけで契約状態を自己判断せず、仕入先へ変更やキャンセルの可否、発生する費用を直接確認します。
なお、先ほどの計算で期間内に入荷済みとした40個とは別に、もし今後届く予定の発注残(未着予定)がある場合は、手元の期末在庫160個に足し合わせず、別の管理列で把握します。発注点や安全在庫の理論的な計算式は、発注点と安全在庫を確認するを参照してください。
値下げする前に、どの販売方法を試す?
手元のポーチの動きが鈍い場合でも、安易な値下げを最初から選ぶ必要はありません。値下げは1個あたりの粗利を圧縮しますが、全体の利益が必ず低下するとも限りません。まずは自店の条件に合わせて、複数の販売施策を対等な候補として比較検討します。
店主1名で運営するこの架空店では、手元で取り組める施策として以下の候補を同列に比較します。
- 商品ページの見直し(写真・説明文の改善)
日常小物を入れた写真を追加してサイズ感を伝えたり、利用シーンを具体的に記載したりして、閲覧した顧客が購入を判断しやすい見せ方に整えます。 - 他商品とのセット販売
単体では動きが鈍いポーチを、売れ筋のハンカチやトートバッグと組み合わせて提案します。セット用の数量、仕入原価、梱包による追加送料が、単品の在庫管理と二重に計上されないよう管理ルールを設けます。 - 期間を決めた価格テスト
値引き率と販売期間をあらかじめ限定し、価格による反応を検証します。
これらの施策を比較する際は、「注文貢献額」の視点を用います。ここでの注文貢献額とは、施策によって得られた実売額(値引きや返金後の金額で、同じ税区分で揃えたもの)から、商品の仕入原価と、その注文を届けるために直接かかった費用(発送費、資材費、追加の広告費など)を差し引いた管理上の金額です。追加費用だけでなく対象原価や直接費を含めて照合し、店舗全体の固定費控除後の利益や、日々の入出金(キャッシュフロー)とは分けて把握します。また、施策期間中に売上が増えた場合でも、その要因を施策の効果だけに安易に帰属させない注意が必要です。
この架空店では、売れ残り対策の追加費用枠を月あたり税抜1万円と仮定しています。この枠内で、広告を試すのか、セット用の資材に充てるのか、自店の条件に合った施策を1つ選びます。
施策を実施する際は、以下の記録を残します。
- 実施する具体的な施策内容
- 実際の販売価格と商品の仕入原価
- 発生する直接費用(送料、資材費、広告費など)
- 担当者(店主)と、自店で決めた結果の確認日
動いた数量だけでなく、手元に残る注文貢献額を確認しながら次の手を判断します。
いつ見直し、会計・税務とは何を分ける?
在庫管理は一度計算して終わりではなく、定期的な点検を続けることで機能します。週に2時間の確認枠を日頃の点検にあてつつ、数量の不一致や期限の迫りに気づいたときは、月末を待たずに状況を確認します。
月末などの定期見直しでは、同じ集計期間・同じ原価基準を用いて数値を更新します。
- 販売可能数と手元の総数
- 統一した基準による期末在庫原価額
- 直近の販売数と販売率(消化率)
- 直近ペースに基づく在庫残日数
- 補充納期と確定している入荷予定
- 前回選んだ販売施策の結果と次の対応
点検にあたって留意すべきは、店舗運営上の「滞留在庫」という判断と、会計・税務上の「棚卸資産評価損」の境界です。店が「売れ行きが鈍い」と判断したからといって、自店の裁量だけで帳簿価額を減額し、税務上の評価損として計上することはできません。
国税庁の法人税基本通達9-1-4〜6では、法人の棚卸資産の評価損が認められる事実として、著しい陳腐化(資産の価値が著しく低下し回復しないと認められる場合や、季節商品の売れ残りで今後通常の価格で販売できないことが客観的に明らかな場合など)や、破損・型くずれ・品質変化等により通常の方法で販売できなくなった場合が定められています。一方で、単なる物価変動、過剰生産、建値変更(建値下落)による時価の下落だけでは対象外とされています。
また、この通達は法人税に関する取扱いであり、個人事業主の所得税における必要経費の計算へそのまま拡張できるものでもありません。自店の独自判断で税務上の損金処理や廃棄損計上を行わず、実際の処理にあたっては税理士などの専門家や所轄税務署へ個別に相談してください。
次の行動として、以下の2つから着手します。
- 代表的な1商品を選び、期間・原価・数量の基準を揃えて計算する
代表ポーチ1種類を対象に、期間(30日間など)を揃えたうえで、回転率は同原価基準の平均在庫原価と売上原価を用い、販売率や残日数は、取得したレポートの対象期間と数量の状態定義に合わせて算出し、別々の列に整理します。この架空例は確保済みと販売不可の在庫がないため、手元総数と販売可能数が一致します。 - 滞留の兆候がある商品について、1つの施策と担当・確認日を決める
動きの遅い商品について、写真の見直しやセット化、期間を定めた価格テストなどから自店に合う施策を1つ選び、店主自身を担当者として結果を確認する日付を設定します。
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